に狼を退治してみせるのだ。
お妙 (探るように。)狼のありかは判りましたか。
弥三郎 わかれば直ぐに退治に行くが……。そのありかが知れないので困るのだ。きょうは一度も源五郎に逢わなかったが、あいつも屹《きっ》と狼のありかを探しているに相違ない。おれも今夜は鉄砲を持ち出して、夜通し村中を見廻ってあるく積りだ。みんなが無暗に切支丹を有難がっているのを聞くと、おれは何だか腹が立って来た。どうしてもあの狼をおれたちの手で仕留めて、切支丹の坊主が偉いか、おれ達が偉いか、この腕をみせて遣らなければならないのだ。
お妙 兄さんの気性としては無理もないことですが、せいては事を仕損じます。よくその正体を見とどけた上で……。
弥三郎 なに、正体を見とどけろと……。
お妙 若《も》しも間違えて、人でも殺すようなことがあっては大変ですから……。
弥三郎 (笑う。)馬鹿をいえ。いくら慌てても、人間と獣とを間違える程のおれでは無いぞ。さあ、暗くならないうちに、早く行って来い。
(弥三郎は向うへ行きかかる。お妙は又よび返そうとして躊躇しているうちに、弥三郎は去る。芦のあいだより源五郎出づ。)
源五郎 兄さんは見つけ
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