おれ切っている男の顔が、半月前とは別の人のように痩せ衰えているのを見るにつけても、その悼《いた》ましい苦労が思いやられて、お園の涙は止めどなしに流れた。

     二

 親方は親切な人で、自分にもいろいろと力をつけてくれる。親のことはもう諦めるよりほかはない。
 こう思えば差し当って六三郎の身の上に何のわずらいもないのであるが、彼の最も恐れているのは広い世間の口と眼とであった。むごい口で海賊の子と罵られ、冷たい眼で引廻しの子と睨まれる。それでは世間に顔出しができない。出入り場へも仕事に行かれない。
「それを思うと、俺はもう生きている気はない」と、六三郎は意気地がないように泣き出した。
 男の気の弱いのはお園もかねて知っているので、こうして意気地なく泣いているのが、彼女にはいよいよいじらしく憐れに思われた。お園は子供をすかすように男をなだめて、たとい世間で何と言おうとも、誰がうしろ指を差そうとも、お前には頼もしい親方もついている、わたしというものもある。決して心細く思うには及ばない。ことし十九の男が泣いてばかりいるものではない。もっと心を強くもって男らしくしなければならないと、噛んで
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