は転《ころ》げるように門のなかへ駈け込むと、これは満洲地方で見る普通の農家で、門の中にはかなり広い空地がある。その左の方には雇人の住家らしい小さい建物があって、南にむかった正面のやや大きい建物が母屋《おもや》であるらしく思われた。
李太郎が先に立って案内すると、母屋からは五十五、六にもなろうかと思われる老人が出て来て、こころよく二人を迎えた。なるほど親切な人物らしいと、堀部君もまず喜んで内へ誘い入れられた。家のうちは土竈《どべっつい》を据えたひと間をまん中にして、右と左とにひと間ずつの部屋が仕切られてあるらしく、堀部君らはその左の方の部屋に通された。そこはむろん土間で、南側と北側とには日本の床よりも少し高い寝床《ねどこ》が設けられて、その上には古びた筵《むしろ》が敷いてあった。土間には四角なテーブルのようなものが据えられて、木の腰掛けが三脚ならんでいた。
老人は自分がこの家の主人であると言った。この頃はここらに悪い感冒がはやって、自分の妻も二人の雇人もみな病床に倒れているので碌々《ろくろく》にお構い申すことも出来ないと、気の毒そうに言訳をしていた。
「それにしても何か食わしてもらい
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