たい。李太郎、お前も手伝ってなにか温かいものを拵《こしら》えてくれないか。」と、堀部君は寒気と疲労と空腹とにがっかりしながら言った。
「よろしい、よろしい。」
李太郎も老人に頼んで、高梁《コーリャン》の粥《かゆ》を炊いてもらうことになった。彼は手伝って土竈の下を焚き始めた。その煙りがこちらの部屋まで流れ込んで来るので、堀部君は慌てて入口の戸を閉めたが、何分にも寒くて仕様がないので、再びその戸をあけて出て、自分も竃《へっつい》の前にかがんでしまった。
老人が堀部君を歓待したのは子細《しさい》のあることで、彼は男女三人の子供をもっているが、長男は営口の方へ出稼ぎに行って、それから更に上海へ移って外国人の店に雇われている。次男は奉天へ行って日本人のホテルに働いている。そういう事情から、彼は外国人に対しても自然に好意をもっている。殊に奉天のホテルでは次男を可愛がってくれるというので、日本人に対しては特別の親しみをもっているのであった。その話をきいて、堀部君はいい家へ泊り合せたと思った。粥は高梁の中へ豚の肉を入れたもので、その煮えるのを待ちかねて四、五椀すすり込むと、堀部君のひたいには汗がに
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