いので、堀部君は半分夢中でそれを乗り越えて、表の往来まで追って出ると、娘の影は大きい楊《やなぎ》の下にまた浮き出した。
「姑娘、姑娘。」と、堀部君は大きい声で呼んだ。「上那児去《シャンナールチユイ》。」
どこへ行く、などと呼びかけても、娘の影は見返りもしなかった。それは風に吹きやられる木の葉のように、何処《どこ》ともなしに迷って行くらしかった。
それでも姑娘を呼びつづけて七、八|間《けん》ほども追って行くと、又ひとしきり烈しい吹雪がどっと吹きまいて来て、堀部君はあやうく倒されそうになったので、そこらにある楊に取り付いてほっとひと息ついた時に、堀部君はさらに怪しいものを見せられた。それはさっき門内の空地にさまよっていた女のような白い影で、娘よりも二、三歩さきに雪のなかを浮いて行くと、娘の影はそれにおくれまいとするように追って行くのであった。うず巻く雪けむりの中にその二つの白い影が消えてあらわれて、よれてもつれて、浮くかと思えば沈み、たゆとうかと思えばまた走って、やがて堀部君の眼のとどかない所へ隠れてしまった。
もう諦めて引っ返して来ると、内には李太郎が蝋燭をとぼして、恐怖に満ちた眼
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