色をしてぼんやりと突っ立っていた。
「姑娘はどうした。」と、堀部君はからだの雪を払いながら訊いた。
「姑娘、おりません。」
堀部君はさらに右の方の部屋をたずねると、主人の老人は寝床から這い落ちたらしい妻を抱えて、土間の上に泣き倒れていた。娘らしい者の姿は見えなかった。
話はこれぎりである。堀部君はあくる朝そこを発って、雪の晴れたのを幸いに、三里ほどの路をたどって劉の家をたずねると、その一家でもゆうべの話をきいて、みな顔色を変えていたそうである。ここらの者はすべて雪女の伝説を信じているらしいということであった。もし堀部君に探偵趣味があり、時間の余裕があったらば、進んでその秘密を探り究めることが出来たかも知れなかったが、不幸にして彼はそれだけの事実をわたしに報告してくれたに過ぎなかった。
底本:「鷲」光文社文庫、光文社
1990(平成2)年8月20日初版1刷発行
初出:「子供役者の死」隆文館
1921(大正10)年3月
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:松永正敏
2006年10月31日作成
青空文庫作成ファイル:
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