空地《あきち》をさまよっているのであった。雪煙りかと思って堀部君は眼を据えてきっと見つめていたが、それが煙りかまぼろしか、その正体をたしかめることが出来なかった。しかし、それが人間でないことだけは確かであるので、馬賊の懸念はまず消え失せて、堀部君もピストルを握った拳《こぶし》がすこしゆるむと、家のなかから又もや影のように迷い出たものがあった。
その影は二人のあいだをするりと摺りぬけて、李太郎のあけた扉の隙間から表へふらふらと出ていった。
「あ、姑娘《クーニャン》。」と、李太郎が小声でまた叫んだ。
「ここの家《うち》の娘か。」
あまりの怖ろしさに李太郎はもう口がきけないらしかった。しかしそれが家の娘であるらしいことは容易に想像されたので、堀部君はピストルを持ったままで雪のなかへ追って出ると、娘の白い影は吹雪の渦に呑まれて忽《たちま》ち見えなくなった。
「早く主人に知らせろ。」
李太郎に言い捨てて、堀部君は強情に雪のなかを追って行くと、門のあたりで娘の白い影がまたあらわれた。と思うと、それは浪にさらわれた人のように、雪けむりに巻き込まれて門の外へ投げやられたらしく見えた。門は幸いに低
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