って野幇間《のだいこ》の真似もしているという男で、父とは以前から知っているのです。それが久振りで顔を出しまして、実はこんなものが手に入りましたからお目にかけたいと存じて持参しましたという。いや、お前も知っている通り、わたしは商売をやめるときに代々持ち伝えていた書画骨董類もみんな手放してしまったくらいだから、どんな掘出し物だか知らないが、わたしのところへ持って来ても駄目だよ、と父は一旦断りましたが、まあともかくも品物をみてくれ、あなたの気に入らなかったらどこへか世話をしてくれと、孝平は臆面なしに頼みながら、風呂敷をあけてもったいらしく取出したのは、一つの古びた面箱でした。
「これはさるお旗本のお屋敷から出ましたもので、箱書には大野|出目《でめ》の作とございます。出どころが確かでございますから、品はお堅いと存じますが……。」
 紐を解いて、蓋をあけて取出した仮面《めん》をひと目みると、父はびっくりしました。それはかの猿の仮面に相違ないのです。
 孝平はそれをどこかで手に入れて、大野出目の作なぞといういい加減の箱をこしらえて、高い値に売込もうというたくらみと見えました。そんなことは骨董屋商売
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