「星崎さん。いかがでしょう。あなたからまず何かお話し下さるわけには……。この青蛙をわたくしに教えて下すったのはあなたですから、その御縁であなたからまず願いましょう。今晩は特殊の催しですから、そういう材料をたくさんお持ちあわせの方々ばかりを選んでお招き申したのですが、誰か一番に口を切るかたがないと、やはり遠慮勝になってお話が進行しませんようですから。」
真っ先に引き出された星崎さんというのは、五十ぐらいの紳士である。かれは薄白くなっている髯《ひげ》をなでながら微笑した。
「なるほどそう言われると、この床の間の置物にはわたしが縁のふかい方かも知れません。わたしは商売の都合で、若いときには五年ほども上海の支店に勤めていたことがあります。その後にも二年に一度ぐらいは必ず支那へゆくことがあるので、支那の南北は大抵遍歴しました。そういうわけで支那の事情もすこしは知っています。御主人が唯今おっしゃった通り、その青蛙の説明をいたしたのも私です。」
「それですから、今夜のお話はどうしてもあなたからお始めください。」と、主人はかさねて促した。
「では、皆さまを差措いて、失礼ながら私が前座を勤めることにし
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