品なお婆さんもいた。そうかと思うと、まだ若い学生のような人もある。なんだか得体《えたい》のわからない会合であると思いながら、まずひと通りの挨拶をして座に着いて、顔なじみの人たちと二つ三つ世間話などをしているうちに、私のあとからまた二、三人の客が来た。そのひとりは識っている人であったが、ほかの二人はどこの何という人だか判らなかった。
やがて主人から、この天気にようこそというような挨拶があって、それから一座の人々を順々に紹介した。それが済んで、酒が出る、料理の膳が出る。雪はすこし衰えたが、それでも休みなしに白い影を飛ばしているのが、二階の硝子戸越しにうかがわれた。あまりに酒を好む人がないとみえて酒宴は案外に早く片付いて、さらに下座敷の広間へ案内されて、煙草をすって、あついレモン茶をすすって、しばらく休息していると、主人は勿体らしく咳《しわぶ》きして一同に声をかけた。
「実はこのような晩にわざわざお越しを願いましたのは外《ほか》でもございません。近頃わたくしは俳句以外、怪談に興味を持ちまして、ひそかに研究しております。就きましては一夕《いっせき》怪談会を催しまして、皆さまの御高話を是非拝聴
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