わして、その槍の穂をつかんで強く曳いたので、喜兵衛は思わずよろめいて草の上に小膝をついた。
 相手が予想以上に手剛いので、喜兵衛はますます慌てた。彼は槍を捨てて刀に手をかけようとすると、弥次右衛門はすぐに声をかけた。
「いや、しばらく……。御貴殿は手前の笛に御執心か。」
 星をさされて、喜兵衛は一言もない。抜きかけた手を控えて暫く躊躇していると、弥次右衛門はしずかに言った。
「それほど御執心ならば、おゆずり申す。」
 弥次右衛門は小屋へはいって、かの笛を取出して来て、そこに黙ってひざまずいている喜兵衛の手に渡した。
「先刻の話をお忘れなさるな。身に禍いのないように精々お心を配りなされ。」
「ありがとうござる。」と、喜兵衛はどもりながら言った。
「人の見ぬ間に早くお帰りなされ。」と、弥次右衛門は注意するように言った。
 もうこうなっては相手の命令に従うよりほかはない。喜兵衛はその笛を押しいただいて殆んど機械《からくり》のように起ちあがって、無言で丁寧に会釈《えしゃく》して別れた。

 屋敷へ戻る途中、喜兵衛は一種の慚愧《ざんき》と悔恨とに打たれた。世にたぐいなしと思われる名管を手に入れた
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