ちの様子をうかがうと、笛の音はやんでいる。小屋の入口には筵をおろして内はひっそりとしている。
 と思うと、内では低い唸《うな》り声がきこえた。それがだんだんに高くなって、弥次右衛門はしきりに苦しんでいるらしい。それは病苦でなくて、一種の悪夢にでもおそわれているらしく思われたので、喜兵衛はすこしく躊躇した。かの笛のために、彼はあしかけ十年のあいだ、絶えず苦しめられているという、さっきの話も思いあわされて、喜兵衛はなんだか薄気味悪くもなったのである。
 息をこらしてうかがっていると、内ではいよいよ苦しみもがくような声が激しくなって、弥次右衛門は入口の筵をかきむしるようにはねのけて、小屋の外へころげ出して来た。そうして、その怖ろしい夢はもう醒めたらしく、彼はほっと息をついてあたりを見まわした。
 喜兵衛は身をかくす暇がなかった。今夜の月は、あいにく冴え渡っているので、竹槍をかい込んで突っ立っている彼の姿は、浪人の眼の前にありありと照らし出された。
 こうなると、喜兵衛はあわてた。見つけられたが最後、もう猶予は出来ない。彼は持っている槍を取直してただひと突きと繰出すと、弥次右衛門は早くも身をか
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