喜悦と満足とを感じながら、また一面には、今夜の自分の恥かしい行為が悔まれた。相手が素直にかの笛を渡してくれただけに、斬取り強盗にひとしい重々の罪悪が彼のこころにいよいよ強い呵責《かしゃく》をあたえた。それでもあやまって相手を殺さなかったのが、せめてもの仕合せであるとも思った。
夜があけたならば、もう一度かの浪人をたずねて今夜の無礼をわび、あわせてこの笛に対する何かの謝礼をしなければならないと決心して、彼は足を早めて屋敷へ戻ったが、その夜はなんだか眼が冴えておちおちと眠られなかった。
夜のあけるのを待ちかねて、喜兵衛は早々にゆうべの場所へたずねて行った。その懐中には小判三枚を入れていた。河原には秋のあさ霧がまだ立ち迷っていて、どこやらで雁《がん》の鳴く声がきこえた。
芒をかきわけて小屋に近寄ると、喜兵衛はにわかにおどろかされた。石見弥次右衛門は小屋の前に死んでいたのである。彼は喜兵衛が捨てて行った竹槍を両手に持って、我れとわが喉《のど》を突き貫いていた。
そのあくる年の春、喜兵衛は妻を迎えて、夫婦の仲もむつまじく、男の子ふたりを儲けた。そうして何事もなく暮らしていたが、前の出来
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