衛に聴き付けられたのであった。
 ここまで話して来て、弥次右衛門は溜息をついた。
「さきに四国遍路が申残した通り、この笛には何かの祟りがあるらしく思われます。むかしの持主は何者か存ぜぬが、手前の知っているだけでも、これを持っていた四国遍路は路ばたで死ぬ。これを取ろうとして来た旅の侍は手前に討たれて死ぬ。手前もまたこの笛のために、かような身の上と相成りました。それを思えば身の行く末もおそろしく、いっそこの笛を売放すか、折って捨てるか、二つに一つと覚悟したことも幾たびでござったが、むざむざと売放すも惜しく、折って捨つるはなおさら惜しく、身の禍いと知りつつも身を放さずに持っております。」
 喜兵衛も溜息をつかずには聴いていられなかった。むかしから刀についてはこんな奇怪な因縁話を聴かないでもないが、笛についてもこんな不思議があろうとは思わなかったのである。
 しかし年のわかい彼はすぐにそれを否定した。おそらくこの乞食の浪人は、自分にその笛を所望されるのを恐れて、わざと不思議そうな作り話を聞かせたので、実際そんな事件があったのではあるまいと思った。
「いかに惜しい物であろうとも、身の禍いと知りな
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