梅沢君も不思議に思った。呉れた人にもその訳はわからなかった。いずれにしても面白いものだというので、梅沢君はそのがま[#「がま」に傍点]を座敷の床の間に這わせておくと、ある支那通の人が教えてくれた。
「それは普通のがま[#「がま」に傍点]ではない。青蛙というものだ。」
 その人は清《しん》の阮葵生《げんきせい》の書いた「茶余客話」という書物を持って来て、梅沢君に説明して聞かせた。
 それにはこういうことが漢文で書いてあった。
 ――杭州に金華将軍なるものあり。けだし青蛙の二字の訛りにして、その物はきわめて蛙に類す。ただ三足なるのみ。そのあらわるるは、多く夏秋の交《こう》にあり。降《くだ》るところの家は※[#「禾+朮」、第3水準1−89−42]酒《じゅつしゅ》一盂を以てし、その一方を欠いてこれを祀る。その物その傍らに盤踞《ばんきょ》して飲み啖《くら》わず、しかもその皮膚はおのずから青より黄となり、さらに赤となる。祀るものは将軍すでに酔えりといい、それを盤にのせて湧金《ゆうきん》門外の金華太侯の廟内に送れば、たちまちにその姿を見うしなう。而して、その家は数日のうちに必ず獲《う》るところあり、
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