にここらはみな農家で、男も女も働かなければならないのであるから、いかに容貌《きりょう》がよくても、人間が利口でも、一本足の不具者を嫁に貰うものはなさそうである。あたら容貌を持ちながら一生を日かげの花で終るのかと思うと、与市の母や兄ばかりでなく、時どきにたずねてゆく庄兵衛の妻も暗い思いをさせられた。
 庄兵衛夫婦には子供がない。かれらが不具の少女を拾いあげたのも、勿論その不幸をあわれむ心から出たには相違ないが、子のない夫婦の子供好きということも半分はまじっていたので、妻は一面に暗い思いをしながらも、また一面にはだんだんに美しく生長してゆくお冬の顔をみるのを楽しみに、時どきに忍んで逢いに行くのであった。そうしていくらかの附金《つけがね》をしてやってもよいから、どこかで嫁に貰ってくれる家はあるまいかなどと、与市の母や兄に相談することもあったが、前にいったような訳であるから、この相談は容易に運びそうもなかった。
 こうして、また一年二年と送るうちに、お冬はいよいよ美しい娘盛りとなって、いつも近所の若い男どもの噂にのぼった。中にはいたずら半分にその袖をひく者もあったが、利口なお冬は振向きもしなか
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