。唯のそのそと付いて来るだけのことであるが、何分にも気味がよくない。もちろん、それは張訓の眼にみえるだけで、ほかの者にはなんにも見えないのである。かれも堪らなくなって、ときどきに剣をぬいて斬り払おうとするが、一向に手ごたえがない。ただ自分の前にいたがま[#「がま」に傍点]がうしろに位置をかえ、左にいたのが右に移るに過ぎないので、どうにもこうにもそれを駆逐する方法がなかった。
 そのうちに彼らはいろいろの仕事をはじめて来た。張訓が夜寝ていると大きいがま[#「がま」に傍点]がその胸のうえに這いあがって、息が止るかと思うほどに強く押し付けるのである。食卓にむかって飯を食おうとすると、小さい青いがま[#「がま」に傍点]が無数にあらわれて、皿や椀のなかへ片っ端から飛込むのである。それがために夜もおちおちは眠られず、飯も碌々には食えないので、張訓も次第に痩せおとろえて半病人のようになってしまった。それが人の目に立つようにもなったので、かれの親友の羊得というのが心配して、だんだんその事情を聞きただした上で、ある道士をたのんで祈祷を行なってもらったが、やはりその効はみえないで、がま[#「がま」に傍点]
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