も殺すとも相当の処置を取るべきであったのに、一途《いちず》にはやまって成敗してしまったのはあまりに短慮であったとも思われた。しかし今更どうにもならないので、かれは妻のなきがらの始末をして、翌日それをひそかに将軍に報告すると、将軍はうなずいた。
「おまえの妻はやはり一種の鬼であったのだ。」
二
それから張訓の周囲にはいろいろの奇怪な出来事が続いてあらわれた。かれの周囲にはかならず三本足のがま[#「がま」に傍点]が付きまとっているのである。室内にいれば、その榻《とう》のそばに這っている。庭に出れば、その足もとに這って来る。外へ出れば、やはりそのあとから付いてくる。あたかも影の形にしたがうが如きありさまで、どこへ行ってもかれのある所にはかならず、青いがま[#「がま」に傍点]のすがたを見ないことはない。それも最初は一匹であったが、後には二匹となり、三匹となり、五匹となり、十匹となり、大きいのもあれば小さいのもある。それがぞろぞろと繋《つな》がって、かれのあとを付けまわすので、張訓も持てあました。
その怪しいがま[#「がま」に傍点]の群れは、かれに対して別に何事をするのでもない
前へ
次へ
全256ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング