ので今までは気が付かなかったが、少女は一本足であった。かれは左の足をもっているだけで、右の足は膝の上から切断されているのであった。生れ落ちるとからの不具ではない。さりとて何かの病いのために切断したのでもない。おそらく何かの子細で路ばたに捨てられていたところを、野良犬か狼のような獣《けもの》のために片足を啖い切られたらしいと、その疵口の模様によって庄兵衛は判断した。
こうなると、夫婦はいよいよ不憫が増して来て、どうしてもこのままに見捨ててゆく気にはなれなくなった。こういう美しい、いじらしい少女を乞食にしておくということが不憫であるばかりでなく、前にもいう通りのお触れが出ている以上、かれは何人《なんぴと》の恵みをも受けることが出来なくなって、早く他領へ立退くか、あるいはここでみすみす飢え死にしなければならないのである。庄兵衛は試みに少女に訊いた。
「おまえは乞食に物をやるなというお触れの出ているのを知らないのか。」
「知りません。」と、かれはまったく何にも知らないように答えた。
庄兵衛の妻はまた泣かされた。かれは夫を小蔭へまねいて、なんとかしてかの少女を救ってやろうではないかとささやく
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