はそのまま寝てしまいました。
 小僧は三匹の蟹を無理に売付けて行ったのですから、まだ二匹は残っています。これにも毒があるかないかを試してみなければならないのですが、もう夜もふけたので、それもあしたのことにしようといって、台所の土間の隅にほうり出しておきますと、夜の明けないうちに二匹ながら姿を隠してしまいました。死んでいると思っていた蟹が実はまだ生きていて、いつの間にか這い出したのか、それとも犬か猫がくわえ出したのか、それも結局わかりませんでした。
 一体、蝦《えび》や蟹のたぐいにはどうかすると中毒することがあります。したがって、その蟹に毒があったからといって、さのみ不思議がるにも及ばないのかも知れませんが、この時には主人をはじめ、家《うち》じゅうの者がみな不思議がって騒ぎ立っているところへ、残った二匹もゆくえ知れずになったというので、いよいよその騒ぎが大きくなりまして、半兵衛は伊助という若い者と一緒に早朝からかの小僧のありかを探しに出ました。
 半兵衛は勿論、台所に居あわせた者のうちで誰もその小僧の顔を見知っている者がないのです。浜の漁師の子供ならば、誰かがその顔を見知っていそうなはず
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