そうでしたか。」と、S君も微笑した。「娘というのはおそらく嫁でしょう。私はその娘のことを聴きました。徐の家は呪われているというので、近い処からは誰も嫁に来るものがない。忠僕の王が山東省まで出かけて行って、美人の娘をさがして来た。といっても、実は高い金を出して買って来たのでしょう。ところが、ここへ来るとすぐに病人になって、いつまでも癒らないので困っているということです。よその人に対しては、主人の妻というのを憚って、主人の娘といったのでしょう。病気はなんです。」
「たしかに肺病ですね。」と、T君は答えた。
「可哀そうですな。」と、S君も顔をしかめた。「まさかに、ここの家へ貰われて来たせいでもないでしょうが、遅かれ速かれ、家に妖ありの材料がまたひとつ殖えるわけですな。いや、どうも長話をしました。諸君はここにお泊りでしょうから、まあ注意して妖に祟られない方がいいですよ。女妖というのはなお怖ろしいですから。」
 まじめな顔で冗談を言いながら、S君が我れわれのまどいを離れた頃には、高粱の薪《まき》ももう大方は灰となって、弱い火が寂しくちろちろと燃えていた。僕たち四人も門前まで送って出ると、空には銀
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