何かの子細があるらしいと噂されているうちに、或る日その若いせがれが竈の中で焼け死んでいるのを発見した。弟が竈にはいっているのを知らないで、兄が外から戸をしめて火をかけたとかいうのです。つづいてその兄も発狂して死ぬというわけで、不幸に不幸が重なって来ました。
それでも主人は強情に商売をつづけていたが、相変らずの窯変がつづくのでどうすることも出来ない。結局根負けがして瓦屋を廃業して、土地や畑を買って農業を営むこととなったが、その後は別に異変もなく、むしろ身上《しんしょう》は大きくなる方で、それから十年あまりの後に主人は死んだ。その死にぎわにいろいろのことを口走ったので、瓦竈の秘密が初めて世間に洩れたというのですが、何分にも十年余の昔のことでもあり、確かな証拠もないことですから、それは単に重病人の譫言《うわごと》というだけで済んでしまったそうです。しかし、かの窯変といい、兄弟の死に方といい、それは事実に相違ないと近所の者は今でも信じているのです。
兄弟のせがれは父よりも早く死んだので、徐の家では女の子を貰ってそれに婿を取ったのですが、それも主人が死んでから二、三年の後には夫婦ともに死ぬ。
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