たりを火葬にしてしまったのです。旅びとは何者だか判りませんが、おそらく長髪賊の余類だろうということです。江南の賊が満洲へ逃げ込んで来るのもおかしいように思われますが、ここらではそう言っているのです。
いずれにしても、旅びとは死んで金袋は残った。無事旅びとを助けてやれば、その半分を貰うはずでしたが、相手がみな死んでしまったので、その金は丸取りです。金高はいくらだか知りませんが、徐の家がにわかに工面《くめん》よくなったのは事実で、近所でも内々不思議に思っていると、その以来、徐の瓦竈にはさまざまの奇怪なことが起ったのです。
まず第一は瓦が満足に焼けないで、とかくに焼けくずれが出来てしまうことですが、さらに奇怪なのは窯変《ようへん》です。御承知でもありましょうが、窯変というのは竈の中で形がゆがんでさまざまの物の形に変るのをいうので、数ある焼物のうちに稀にそういうこともあるものだそうですが、徐の家の竈にはその窯変がしばしば続いて、もとより瓦を焼くつもりであるのに、それを竈から取出して見ると、たくさんの瓦がみな人間の顔や手や足の形に変っている。
それがまた近所の噂になって、徐のうちの窯変には
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