残らず捜索したが、どこにも人の姿が見あたらない。竈には火がかかっているので、まさかそのなかに人間が隠してあろうとは思わない。結局不審ながらに引揚げたので、主人はまずほっとしたが、さて気にかかるのは竈のなかの人間です。
 瓦と同じように焼かれては堪らない。どうもひどい事をしたものだと言うと、せがれ達の言うには、あの二人は、なにか重い罪を犯したものに相違ない。それを隠まったということが露顕すれば、我れわれ親子も重い罰をうけなければならない。こうなったら仕方がないから、彼らを焼き殺して、我れわれの禍いを逃がれるよりほかはない。彼らとても追手に捕われて、苦しい拷問やむごたらしい処刑をうけるよりも、いっそ一と思いに焼き殺された方がましかも知れない。我れわれが早くに竈へ火をかけたればこそ、追手も油断して帰ったが、さもなければ真っ先に竈の中をあらためて、彼らは勿論、我れわれも今ごろは手枷《てかせ》や首枷をはめられているであろうと言う。
 それを聞くと主人も伜たちの残酷を責める気にもなれなくなって、そんなら思い切って十分に焼いてしまえというので、自分も手伝って、焚き物をたくさんに入れて、哀れな旅びとふ
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