でも雪の降っている日であったそうですが、二人の旅びとがたずねて来た。たずねて来たといっても、物に追われたようにあわただしく駈け込んで来たのです。その旅びとは主人にむかって、我れわれは捕吏に追われている者であるから、どうぞ隠まってもらいたい。その代りに我れわれの持っている金を半分わけてあげると言って、重そうな革袋を出して渡した。主人も欲に眼がくらんで、すぐによろしいと引受けた。が、さてそれを隠すところがないので、あたかも瓦竈《かわらがま》に火を入れてなかったを幸いに、ふたりをその竈のなかへ押込んで戸を閉めると、続いてそのあとから巡警が五、六人追って来て、今ここへ怪しい二人づれの旅びとが来なかったかと詮議したが、主人は空とぼけて何にも知らないと言う。しかし巡警らは承知しない、たしかにこの家へ逃げ込んだに相違ないといって、家探《やさが》しを始めかかったので、主人も困った。これは飛んでもないことをしたと、いまさら悔んでももう遅い。あわや絶体絶命の鍔際《つばぎわ》になったときに、伜の兄が弟に眼くばせをして、素知らぬ顔でその竈に火を焚き付けてしまった。いや、どうも怖ろしい話です。
巡警らは家内を
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