い女と共にこの家の召使であるらしいことは、その風俗を見てすぐに覚られたので、僕たちはかれらふたりを問題にはしないで、一斉に注意の眼をまん中の娘にあつめると、娘は十七というにしては頗るおとなびていた。痩せてはいるが背も高い方で、うすい桃色地に萌葱《もえぎ》のふちを取った絹の着物を着て、片手を老女にひかれながら、片手の袖は顔半分をうずめるよう掩《おお》っていた。その袖のあいだからかなり強い咳の声が時どき洩れた。
 画燈に照らされた三つの影がひと株の柳の下にとどまると、かの老人は静かに近寄って老女に何事かをささやいた。老女は彼の妻であるらしい。老人はさらに僕たちに向って、病人の娘が来ましたから、御診察をねがいたいと丁寧に言った。さあ、こうなると四人のうちで誰が進んで病人を診察するかと、僕たちも今更すこしく躊躇したが、なんといってもT君が比較的に支那語に通じているのであるから、これがお医者さまになるよりほかはない。T君も覚悟して進み出て、いよいよ病人の脈を取ることになった。T君は病人の顔を見せろと言うと、老人はあたかもそれを通訳するように老女にささやいて、青い袖の影に隠されている娘の顔を画燈の
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