つもりであると僕たちが答えると、彼は再び頭をふり、手を振って、それはいけないというらしいのである。しかし僕たちは支那語によく通じていない上に、相手は満洲なまりが強いと来ているので、その言うことがはっきりと判らない。彼は何か我れわれをおどすような表情や手真似をして、そこへ泊るのは止せというらしいのであるが、その意味がどうも十分に呑み込めないので、僕たちも焦《じ》れ出した。
「まあ、いい。なんでも構わないから、内へはいって交渉して見よう。」
 気の早い三人は先に立って門内にはいり込んだ。僕も続いてはいろうとすると、かの男は僕の腰につけている雑嚢《ざつのう》をつかんで、なにか口早に同じようなことを繰返すのである。僕は無言でその手を振払って去った。
 門はあいたが、内には人のいるらしい様子もみえない。四人は声をそろえて呼んだが、誰も答える者はなかった。
「あき家かしら。」
 四人は顔をみあわせて、さらにあたりを見廻すと、門をはいった右側に小さい一棟の建物がある。正面の奥にも立木のあいだに母屋《おもや》らしい大きい建物がみえる。ともかくも近いところにある小さい建物の扉《とびら》を押して見ると、こ
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