直筆のものとお取換えをねがいますと、言うかと思うと夢がさめた。そこで、念のためにお前をよんで訊いてみると、果してその通りだという。そのときにも少し不思議に思ったが、まずそのままにしておくと、またぞろその女がゆうべも来て、先日張訓に下さいました鎧は朽ち破れていて物の用にも立ちません。どうぞしかるべき品とお取換えをねがいますと言う。そこで、おまえに訊いてみると、今度もまたその通りだ。あまりに不思議がつづくので、もしやと思って詮議すると、その女はまさしくお前の妻だ。年ごろといい、人相といい、眉の下のほくろ[#「ほくろ」に傍点]までが寸分|違《たが》わないのだから、もう疑う余地はない。おまえの妻はいったいどういう人間だか知らないが、どうも不思議だな。」
 子細をきいて、張訓もいよいよ呆れた。
「まったく不思議でございます。よく詮議をいたしてみましょう。」
「いずれにしても鎧は換えてやる。これを持ってゆけ。」
 将軍から立派な鎧をわたされて、張訓はそれをかかえて退出したが、頭はぼんやりして半分は夢のような心持であった。三年越し連れ添って、なんの変ったこともない貞淑な妻が、どうしてそんな事をしたの
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