か。さりとて将軍の詞に嘘があろうとは思われない。家へ帰る途中でいろいろ考えてみると、なるほど思い当ることがある。半年前の扇子の時にも、今度の鎧の問題にも、妻はいつでも先を見越したようなことを言って自分を慰めてくれる。それがどうもおかしい。たしかに不思議だ。これは一と詮議しなければならないと、張訓は急いで帰ってくると、妻はその鎧を眼早く見つけてにっこり笑った。
その可愛らしい笑い顔は鬼とも魔とも変化《へんげ》とも見えないので、張訓はまた迷った。しかし彼のうたがいはまだ解けない。殊に将軍の手前に対しても、なんとかこの解決を付けなければならないと思ったので、かれは妻を一と間《ま》へ呼び込んで、まずその夢の一条を話すと、妻も不思議そうな顔をして聞いていた。そうして、こんなことを言った。
「いつかの扇子のときも、今度の鎧についても、あなたは大層心もちを悪くしておいでのようでしたから、どうかしてお心持の直るようにして上げたいと、わたくしも心から念じていました。その真心が天に通じて、自然にそんな不思議があらわれたのかも知れません。わたくしも自分の念がとどいて嬉しゅうございます。」
そう言われてみ
前へ
次へ
全256ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング