ものか、ほとんど想像が付かなかった。しかし水に映る顔が二つで、今や二つの鏡を引揚げた以上、その顔の持主《もちぬし》とこの鏡の持主とのあいだに、なにかの関係があることだけは、誰にも容易に想像された。
吉左衛門は大家《たいけ》に育っただけに、相当の学問の素養もあるので、この古い鏡の発見について少なからぬ興味をもった。且《かつ》はその鏡に自分の娘ふたりを蠱惑《こわく》する不可思議な魔力がひそんでいるらしいことを認めたので、いよいよそのままには捨ておかれないと思って、まずその両面の鏡を白木の箱のなかへ厳重に封じこめた。それから城下へ出て行って有名な学者や鑑定家などを尋ねまわって、その鏡の作られた時代や由緒《ゆいしょ》について考証や鑑定を求めたが、それは日本で作られたものでない、おそらく支那から渡来したものであろうという以上には、なんの発見もなかったので、吉左衛門も失望した。
その鏡を引揚げて以来、井戸のなかには男の影が映らなくなった。それから考えても、その鏡には何かの秘密がひそんでいるに相違ないと信じられたので、吉左衛門は隣国まで手をまわして、いろいろに詮索《せんさく》した。なにしろ大家で
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