ど減って来た。
底にはどんな怪物がひそんでいるか、池の主《ぬし》といったような鯉かなまず[#「なまず」に傍点]か、それともがま[#「がま」に傍点]かいもり[#「いもり」に傍点]かなどと、諸人が想像していたような物の姿は、どうも見いだされそうもないので、吉左衛門は更に命令した。
「熊手《くまで》をおろしてみろ。」
鉄の熊手は太い綱をつけて井戸の底へ繰下げられた。なにか引っかかる物はないかと、幾たびか引っ掻きまわしているうちに、小さい割には重いものが熊手にかかって引揚げられたので、明るい日光の下《もと》で大勢が眼をあつめて見ると、それは小さい鏡であった。鏡はよほど古いものらしく、しかも高貴の人が持っていた品であるらしいのは、それに精巧な彫刻などが施してあるのを見ても知られた。まだ何か出るかも知れないというので、さらに熊手をおろして探ると、また一面の鏡が引揚げられた。これも前のと同じような品であった。
そのほかにはもうなんにも掘出し物はないらしいので、その日の井戸さらいはまず中止になって、さらにその二つの鏡の詮議に取りかかったが、単に古い物であろうというばかりで、いつの時代に誰が沈めた
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