が若いだけに、妹の方が容易に白状するであろうと思ったからであった。おつぎは奥のひと間へ呼び入れられて、両親が膝づめで詮議すると、最初は強情に口をつぐんでいたが、いろいろに責められてとうとう白状した。
 その白状がまた奇怪なものであった。おそよとおつぎは奥の八畳の間に毎夜の寝床をならべるのを例としていたが、八月はじめのある夜のことである。おつぎが夜半《よなか》にふと眼をさますと、自分のとなりに寝ている姉がそっと起きてゆく。初めは厠《かわや》へでも行くのかと思っていると、おそよは縁先の雨戸をあけて庭口の方へ忍んで出るらしいので、おつぎもなんだか不思議に思った。一種の不安と好奇心とに誘われて、妹もそっと姉のあとをつけて出ると、おそよは庭口から裏手へまわった。そこには広い空地《あきち》があって、古い井戸のほとりには大きい椿が一本立っている。おそよはその井戸のそばへ忍び寄って、月あかりに井戸の底を覗いているらしかった。
 それから毎晩注意していると、おそよの同じ行動は四日も五日も続いて繰返された。おつぎはそれを両親に密告しようかとも思ったが、ふだんから仲好しの姉の秘密をむやみに訴えるのは好くない
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