違ないことを早くも知って、彼は不思議に思った。大きい木のかげに隠れて、なおもその様子をうかがっていると、姉妹は手を引合ってむつまじく寄り添いながら、一心に井戸の底をのぞいているらしかった。まさかに身を投げるのでもあるまいと油断なく窺っていると、やがて姉妹は嬉しそうに笑いながら、手を引合ったままで内へはいった。
下男の密告は単にそれだけに過ぎないが、考えてみると、不審は重々《じゅうじゅう》であると言わなければならない。若い女、ことに半病人の女たちが、なんの用があって寒い夜ふけに裏口へ出て、古井戸のなかを覗いているのかと、吉左衛門夫婦も眉をひそめた。そこで、その下男に言いつけて、あくる夜もそっと井戸のあたりに忍ばせておくと、その晩も夜のふけた頃にかの姉妹が手を引合って出て来た。そうして、ゆうべと同じように井戸をのぞいて、やはり嬉しそうに帰って行くのであった。
こういう不思議な挙動がふた晩もつづいた以上、親たちももう打ち捨てておくわけにはいかなくなった。しかし姉妹ふたりを一緒に詮議してはかえって実《じつ》を吐くまいと思ったので、吉左衛門夫婦はまず妹のおつぎを問い糺《ただ》すことにした。年
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