が、ひとりならず、姉妹揃っておなじ恋煩いというのも少しおかしい。勿論、ふたりともにどっと寝付いているというわけでもなく、天気のいい日や、気分のいい日には、寝床から起き出して田圃《たんぼ》や庭などをぶらぶら歩いているのであるが、それでも病人は病人に相違ないので、親たちの苦労は絶えなかった。
 そうすると、親たちにもいろいろの迷いが出る。土地の者もいろいろのことを言いふらすようになる。由井の家の娘には何かの憑物《つきもの》がしているか、さもなければ由井の家に何か祟っているのであろうという噂が、それからそれへと拡がって行くので、親たちもそれを気に病んで、神主や僧侶や山伏や行者《ぎょうじゃ》などを代るがわるに呼び迎えて、あらゆる加持祈祷をさしてみたが、いずれも効験がない。そのうちに、下男のひとりがこういう秘密を主人夫婦にささやいた。
 その下男は夜半《よなか》に一度ずつ屋敷内を見まわるのが役目で、師走《しわす》の月の冴えた夜にいつもの通り見まわって歩くと、裏手の古井戸のそばに二人の女の立っている姿をみつけた。夜目遠目《よめとおめ》ではあるが、今夜の月は明るいので、その女たちが主人の娘ふたりに相
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