含んで妻に別れた。
隣り村ではよろこんで彼を迎えた。彼は庄屋の家へ案内されていろいろの馳走になった上で、いつもの通り、うわばみ退治の用意に取りかかったが、彼がこの村へ足を踏み込んでから、かのうわばみは一度もその姿をみせなくなった。蛇吉の来たのを知って、さすがのうわばみも遠く隠れたのではあるまいかなどと言う者もあったが、相手が姿をみせない以上、それを釣り出すよりほかはないので、蛇吉は蛇の出そうな場所を見立てて、そこに例のおとし穴をこしらえて、例の秘密の一薬を焼いた。しかもそれは何の効もなかった。小蛇一匹すらもその穴には墜ちなかった。
折角来たものであるから、もう少し辛抱してくれと引留められて、蛇吉はここに幾日かを暮らしたが、うわばみは遂にその姿をあらわさなかった。おとし穴にもかからなかった。
「あまり遅くなると、家の方でも案じましょうから、わたしはもう帰ります。」と、彼は十一日目の朝になって、どうしても帰ると言い出した。
相手の方でもいつまで引留めておくわけにはいかないので、それではまたあらためてお願い申すということになって、村方から彼に二歩の礼金をくれた。うわばみ退治に成功しなか
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