付けてくれるというのであったが、その相談を蛇吉は断った。
隣り村ではよくよく困ったとみえて、さらに庄屋のところへ頼んで来て、お前さんから何とか蛇吉を説得してもらいたいと言い込んだ。隣り村の難儀を庄屋も気の毒に思って、あらためて自分から蛇吉に言い聞かせると、彼はやはり断った。今度の仕事はどうも気乗りがしないから勘弁してくれと言ったが、庄屋はそれを許さなかった。
「おまえも商売ではないか。金一両に米三俵をくれるという仕事をなぜ断る。第一に隣り同士の好誼《よしみ》ということもある。五年前、こっちの村に水の出た時には、隣り村の者が来て加勢してくれたことをお前も知っているはずだ。言わばお互いのことだから、むこうの難儀をこっちがただ見物していては義理が立たない。誰にでも出来ることならば他の者をやるが、こればかりはお前でなければならないから、わたしもこうして頼むのだ。どうぞ頼まれて行ってくれ。」
こう言われると、蛇吉もあくまで強情を張っているわけにもいかなくなった。彼はとうとう無理往生に承知させられることになったが、家へ帰っても何だか沈み勝であった。あくる朝、身支度をして出てゆく時にも、なみだを
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