手もまっ二つに裂けて死んだ。どういう料簡で、おれが股引を引裂いたのか、自分にもわからない。たぶん死んだ親父がそうしろと教えてくれたのだろう。家へ帰ってその話をすると、おふくろは喜びもし嘆きもした。一生に一度という約束を果してしまったから、お父《とっ》さんも二度とおまえを救っては下さるまい。これからはそのつもりで用心しろと言った。その当座はそれほどにも思わなかったが、このごろはそれが思い出されて、なんだか馬鹿に気が弱くなってならない。なに、おれ一人ならばどうにでもなるが、お前のことを考えると、うかうかしてはいられない。」
何につけても自分を思ってくれる夫の親切を、お年は身にしみて嬉しく感じた。
三
ふたりが同棲してから四度目の夏が来た。ことしは隣り村に大きいうわばみが出て、田畑をあらし廻るので、男も女もみな恐れをなして、野良《のら》仕事に出る者もなくなった。このままにしておいては田畑に草が生えるばかりであるから、なんとかしてうわばみ退治の方法をめぐらさなければならないと、村じゅうがあつまって相談の末に、かの蛇吉を頼んで来ることになった。首尾よく退治すれば金一両に米三俵を
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