のは好くありませんから、私も努めて打ち消すように注意しますよ。
中二 どうぞそう願います。なにしろ、親父もおふくろも非常な迷信家ですから……。
高田 (自分を嘲《あざ》けられたような軽い不快を感じながら。)私もその迷信のお仲間かも知れませんよ。はははははは。(無理に笑いながら、立って歩きまわる。やがて立停まって。)ゆうべも又ここへ蝦蟆が出たそうですね。
中二 ゆうべは忙がしいので、わたしは泊りに来ませんでしたが……。親父が又そんなことを云いましたか。
高田 つかまえて、何処へか捨てて来たそうです。
中二 はあ、そうですか。(笑う。)親父もよく色々のことを云いますね。
高田 眼で見たばかりでなく、その蝦蟆を捉《つか》まえたと云うのだから、嘘じゃ無いでしょう。
中二 嘘じゃ無いかも知れません。ここらには蛙のたぐいは沢山棲んでいますからね。
高田 併し三本足の青い蝦蟆なんぞは滅多に棲んでいないでしょう。
中二 (冷《ひやや》かに。)今のおやじの眼には、どんなひきがえる[#「ひきがえる」に傍点]を見ても青く見えるでしょう。三本足にも見えるでしょうよ。
高田 (いよいよ不快を感じて。)そう云えば
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