高田 さあ、信じると云うわけでもありませんが……。今もいう通り、八千|両《テール》の金を祈って、それから五日目に丁度その半額の金が手に入るというのは……(すこし考えて。)勿論、偶然の暗合ではありましょうが……。私はこのごろ好んで怪談の書物を読んでいるせいか、こういう場合には兎角その方へ引き付けて、ミステリアスに考える傾きがあるようです。
中二 そうすると、あなたも親父とおなじように、第二の犠牲を恐れているんですか。
高田 いや、そうまではっきり[#「はっきり」に傍点]とも考えていないんですが……。お父さんは余程それを気にしているようですね。
中二 親父は勿論、おふくろも頻りにそれを気に病んでいるようですから、私は努めてその迷いを打ち破ろうとしているんですが……。(又笑う。)今のお話の様子じゃあ、あなたも私の味方にはなって呉れそうもありませんね。
高田 いや、味方になりますよ。
中二 でも、あなたは今度の出来事を偶然の暗合とばかりは認めていないんでしょう。
高田 そこが自分にもよく判らない、いわゆる半信半疑なんですが……。まあ、いずれにしても、この際お父さんや阿母さんに余計な心配をかける
前へ 次へ
全69ページ中57ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング