廻しながら声を低める。)実はね、その三本足の青い蝦蟆がゆうべもここへ出て来たのですよ。
高田 本当にここへ出て来ましたか。あなたの眼のせいじゃあ無いんですか。
李中行 (頭を掉《ふ》る。)いいえ、確に出て来て……。(卓の下を指さす。)この卓の下にうずくまっているのを見付けたので、私は直ぐに捉《つか》まえて……。
高田 (熱心に。)つかまえて……。それからどうしました。
李中行 娘のかたきだから、いっそ踏み殺してでも遣ろうかと思ったのですが……。そんなことをして、又どんな祟りをされるかも知れないと思うと、わたしも何だか怖くなったので、そのまま紙の袋へ入れて、遠い野原へ捨てて来たのです。ねえ、おまえさん。現在わたしがこの手で捉まえたのが、確な証拠ではありませんか。
高田 むむ。(うなずく。)そうして、その蝦蟆はそれぎり姿を見せませんか。
李中行 それはお前さん。わざわざ遠いところへ捨てて来たのだから、二度と帰って来る筈はありません。みんな眼のせいだ、眼のせいだと云っていたが、あの蝦蟆はやっぱり本当にここの家《うち》に忍んでいたのですよ。(高田の顔を覗いて。)お前さんはまだ疑いますか。
高田
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