騒々しいような。なんだか忌な晩だねえ。(寝室に入る。)
李中行 入り代り、立ち代り、おかしな奴が押掛けて来て、まったく忌な晩だ。高田さんに居て貰って好かった。私ひとりだったら、あんな奴等はなかなかおとなしく立去ることではない。それに付けても、中二は遅いな。
高田 (腕時計をみる。)もう七時過ぎですから、やがて来るでしょう。あいにくに雨がだんだん強くなったようですね。
李中行 なに、あいつはまだ若いから、些《ちっ》とぐらいの雨には困りもしますまいよ。(云いかけて思い出したように。)いや、あの中二の奴めは早くから日本人の店へ奉公に行って、夜学に通わせて貰ったりして、些っとばかり西洋の本なぞを読むようになったものだから、此頃はだんだん生意気になって、親の云うことなぞは頭から馬鹿にして取合わないのですが、今度のことは全く私が悪かったのです。飛んでもない慾に迷って、青蛙神に願掛けをしたものだから、四千両の金の代りに娘の命を取られるような事にもなったのですよ。誰がなんと云っても、それに相違ないのです。
高田 (まじめに。)そんなことが無いとも云えませんね。
李中行 ところで、お前さん。(あたりを見
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