ことを云うな。日が暮れようが、雨が降ろうが、それをおれが知ったことか。ここの家は宿屋ではないのだ。
第二の男 宿屋でないのは知っていますが……。
高田 いや、そればかりでなく、ここの家《うち》は忌中だから他人を泊めることは出来ないのだ。ほかへ行ってくれ給え。
第二の男 ははあ、忌中ですか。一体だれが死んだのです。
高田 そんな詮議をするには及ばないから、早く行って呉れたまえ。
第二の男 わたしは疲れ切っているので、もう一足も歩かれないのです。
(男はそこらにある高梁《コーリャン》の束の上に腰をおろす。寝室より柳が窺い出づ。)
柳 おまえさん。又だれか来たようだが、早く断っておしまいなさいよ。
李中行 断っても動かないのだ。(高田に眼配せしながら。)さあ、出て行ってくれ。早く出て行かないと、引摺り出すぞ。
高田 夜の更けないうちに、ほかへ行って頼むが好い。ここの家は忌中だというのに……。
李中行 さあ、出ろ、出ろ。
(二人は立ちかかる。)
第二の男 ああ、なさけを知らない人達だな。
(男は渋々立ちあがりて表へ出づれば、李は扉を手あらく閉める。男は下のかたへ立去る。)
柳 さびしいような、
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