す。
柳 (李に。)おまえさん、断ったろうね。
李中行 勿論のことだ。今も云っている所だが、知りもしない旅の人間なぞを何《ど》うして迂闊《うかつ》に泊められるものか。無理に断って、逐い出してしまったのだ。
柳 なんでも逐い出してしまうに限るよ。又どんな魔ものが舞い込んで来るかも知れないからね。(云い捨てて、再び寝室に入る。)
高田 (見送る。)やっぱり落付いていられないんですね。
(李は困ったと云うような顔をして、無言にうなずく。高田も気の毒そうに黙っている。雨の音、下のかたより第二の男、やはり第一と同じくらいの年配にて、笠をかぶりて出で、入口の扉をたたく。二人は一旦見返ったが、李はわざと素知らぬ顔をしている。高田は立って扉をあける。)
高田 どなた……。
第二の男 (入り来る。)旅の者ですが、一晩泊めて頂きたいので……。
高田 え、お前さんも泊めてくれと云うのか。
李中行 (ぎょっとしたように、飛び上って呶鳴《どな》る。)いけない、いけない。お断りだ。
第二の男 初めてこっちへ来ましたので、土地の方角はわからず、日は暮れる、雨は降る……。
李中行 (いよいよ呶鳴る。)ええ、同じような
前へ
次へ
全69ページ中48ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング