(少しく声を強めて。)それはお父さんの眼のせいですよ。
李中行 ほんとうに居ないかな。(腰をおろして大息をつく。)ああ、怖ろしいことだ。
高田 何がそんなに怖ろしいのです。
李中行 いや、まあ、皆んな聴いてくれ。こうなったら正直に打明けるが、このあいだの晩、おれが青蛙神に祈ったときに、どうぞここ一月のうちに八千|両《テール》の金をわたくしにお授け下さいと……。
中二 八千両……。
李中行 そうだ、八千両……。実は一万両と云いたかったのだが、それではあんまり慾が深過ぎるかと遠慮して、八千両と祈ったのだが……。そうすると、どうだ。(恐怖に身をふるわせる。)それから五日目の今日《きょう》になって、八千両の半分――四千両が不意に授かるようになった。併しその四千両は……大事な娘の命と引換えになったのだ。
(聴いている三人も思わず顔を見あわせる。)
李中行 ああ、考えても怖ろしい。そこで、残りの四千両――それを授けられる時には、又ひとりの生贄を取られることになるだろう。いや、それに相違ないのだ。(更に身を顫《ふる》わせる。)さあ、今度はだれの番だ……。誰の番だ……。
(三人も一種の恐怖に襲われたよ
前へ
次へ
全69ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング