。)
中二 これ、どうしたんです。お父さん、しっかりおしなさいよ。
柳 お前さんまでが何《ど》うしたんだよ。
(この騒ぎに、高田も寝室より出づ。)
高田 お父さんが又どうかしたんですか。さっきも驚いて倒れかかったが……。(又もや嘆息して。)まったく無理もないな。
李中行 (唸るように。)水をくれ……。水をくれ……。
(中二と高田は李を介抱して榻にかけさせ、柳は茶碗に水を汲んで来て飲ませる。これで少しく落付くと、高田も棚の茶碗を把りてバケツの水を飲む。)
柳 (不安らしく。)急にどうしたんだろうねえ。
中二 脳貧血でも起したのかも知れませんよ。お父さん、もう気分は好いんですか。
李中行 もう好い、もう好い。だが、どうも怖ろしくてならない。(俄に立上る。)これ、そこらに蝦蟆はいないか。
中二 蝦蟆……。
李中行 それ、このあいだの晩の……三本足の青い蝦蟆だ。(恐るる如くに見まわす。)よく見てくれ、探してくれ。
(中二と柳はあたりを見まわす。高田も見まわす。)
中二 蝦蟆なぞは見えませんよ。
高田 そんな物はいません、いません。
李中行 いないか。
中二 相変らず蝦蟆に取憑かれているんだな。
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