ころへも知らせたと云うから、中二は直ぐに駈け付けたろうけれど、わたし達もこうしちゃいられない。お前さん、早く行って様子を見て来てくださいよ。
李中行 (力なげに。)行ってみたければ、お前ひとりで行くが好い。おれは忌《いや》だ。
柳 わたしは女だから困るじゃないか。お前さん早くおいでなさいよ。
李中行 (頭をふる。)忌だ、忌だ。
柳 なぜ忌だというのさ。娘が死にかかっているんじゃないか。
李中行 (嘆息して。)それだから忌だというのだ。可愛い娘が機械にまき込まれて、死にかかった蟋蟀《きりぎりす》のように、手も足も折れてしまった。……。そんな酷《むご》たらしい姿を見せ付けられて堪るものか。その話を聞いただけでも、おれはもう魂が抜けたようになっているのだ。
柳 (おなじく嘆息する。)そう云えば、わたしもそうだが、それでも息のあるうちに、一度逢って遣りたいような気もするからね。当人だって何か云って置きたいことがあるかも知れない。
李中行 遺言があるならば、中二が聞いて来るだろう。なにしろおれは御免だ。(また俯伏す。)
柳 困るねえ。だって、まだ死ぬか生きるか確に決まったわけでも無いじゃあないか
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