。(李の肩に手をかけて揺る。)お前さん。後生だから行ってみて下さいよ。
(李は答えず。)
柳 仕様がないねえ。じゃあ、いっそ思い切ってわたしが行こうかしら。こんな装《なり》をして行っちゃあ、娘の外聞にもかかわるかも知れない。けれど、この場合にそんなことを云っちゃあいられない。
(柳は鎌を片付けて、身支度をする。下のかたより會徳出づ。)
會徳 (窓から声をかける。)なんだか娘が怪我をしたと云うではないか。
柳 (泣き声で。)高田さんの話では、もう助かりそうも無いと云うんですよ。
會徳 それは飛んだことだな。なにしろ早く行ってみたら好かろう。
柳 そう云うんだけれど、この人がぐずぐず[#「ぐずぐず」に傍点]していて、行って呉れないんですよ。
會徳 それではお前が行くがいい。ひとりで困るなら、おれが一緒に行って遣ろうか。
柳 じゃあ、済まないが、そうして下さい。
會徳 よし、よし。
(柳は身支度して表へ出で、會と共に下のかたへ行こうとする時、下の方より李中二走り出づ。)
中二 おお、阿母《おっか》さん。
柳 これから病院へ行こうと思っているんだが、阿香はどんな様子だね。
中二 妹はもういけな
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