来ますから、あなたは一足先へ行って下さい。病院は工場の近所ですから、工場へ行って訊けば直ぐに判ります。さあ、早く……。早く行ってください。
(高田は急いで引立つれば、李は失神したようにふらふらと立上る。)
高田 阿母さんはどこにいるんです。
(李は答えず、唯ぼんやりしている。)
高田 (じれて。)じゃあ、僕が探して来る。あなたは早く行って下さいよ。好いですか。(云い捨てて下のかたへ走り去る。)
(李はつづいて歩み出す気力もないように、再びぐったり[#「ぐったり」に傍点]と榻に腰をおろし、卓の上に俯伏《うつぶ》している。下の方より村の若者がバケツ二個を天びん棒に荷《にな》いて出で、何か歌いながら井戸の水を汲みて去る。それと入れちがいに、下のかたより柳は鎌を持ちて走り出で、すぐに内へ駈け込む。)
柳 (息をはずませて。)もし、お前さん。阿香が大変な怪我をしたそうで……。どうしたら好いだろう。お前さんも高田さんから話を聞いたろうね。
(李はやはり俯伏している。柳はその腕をつかんで、無理にひき起す。)
柳 お前さん、しっかりおしなさいよ。阿香はどうも助かりそうも無いと云うじゃあないか。中二のと
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