場合であったらばどう感じられますか。まあ、想像してごらんなさい」
僕には所詮《しょせん》そんなことの想像のできるはずはなく、ただ身ぶるいするばかりであった。幽霊はまた言いつづけた。
「もし私が質《たち》のわるい幽霊であったらば、ヒンクマン氏より他の人の幽霊になったほうが、さらに愉快であると思うでしょう。あの老人は怒りっぽい人で、すこぶる巧妙な罵詈雑言《ばりぞうごん》を並べ立てる……あんな人にはこれまでめったに出逢ったことがありません。そこで、彼がわたしを見つけて、わたしがなぜここにいるか、また幾年ここにいるかということを発見したら……いや、きっと発見するに相違ありません……そこにどんな事件が出来《しゅったい》するか、わたしにもほとんど見当がつかないくらいです。わたしは彼の怒ったのを見たことがあります。なるほど、その人たちに対して危害を加えはしませんでしたが、その風雨《あらし》のすさまじいことは大変で、相手の者はみな彼の前に縮みあがってしまいました」
それがすべて事実であることは、僕も承知していた。ヒンクマン氏にこの癖がなければ、僕も彼の姪について進んで交渉することが出来るのであった
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