けです。わたしの友達は、まあそのままに我慢していろ、ヒンクマン氏も老人のことであるから長いことはあるまい。彼が今度死ねば、おまえの地位を確保することが出来るのだから、それまで待っていろと忠告してくれたのですが……」と、かれはだんだんに元気づいて話しつづけた。
「どうです、あの爺《じい》さん。今までよりも更に達者になってしまって、私のこの困難な状態がいつまで続くことやら見当がつかなくなりました。わたしは彼と出逢わないように、一日じゅう逃げ廻っているのですが、さりとてここの家を立ち去るわけにはいかず、また、あの老人がどこへでも私のあとをつけて来るように思われるので、実に困ります。まったく私はあの老人に祟《たた》られているのですな」
「なるほど、それは奇妙な状態に立ちいたったものだな」と、僕は言った。「しかし、君はなぜヒンクマン氏を恐れるのかね。あの人が君に危害を加えるということもあるまいが……」
「もちろん、危害を加えるというわけではありません」と、幽霊は言った。「しかし、あの人の実在するということが、わたしにとっては衝動《ショック》でもあり、恐怖《テロル》でもあるのです。あなたがもし私の
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